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ねんねこ俳句

春雨や炬燵の縁に猫溜まり

みな開きまだ寝る花芽いとおしく

花びらや丁半ひねり水の紋

春の陽がつくる影絵のものがたり

ゴザ広げ日だまりと猫おまちかね

冬切りや母骨と入る炬燵かな

一生一度の空、ジョン聞きながら還る

師走入り赤子のような日射しかな




跳ね踊る魚のごとき落ち葉かな       帰郷

紅葉を薄く燃やして蝋曲り

留守録の声の向うが遠い海  

老猫の脚の細さを抱いて寝る

珈琲の香混ぜてく霧の指・・・・・・・・・・・・・・・軽井沢追分、霧の宿と風呂猫珈琲




パリッシュのピンクの雲や野分あと

熱病の影にギッシリ蟻骸



故郷の踏切渡り胸うずく線路のなかを走る面影

虎の尾に貝殻はさむラッコかな


猛猫の尾っぽも透ける春一番

胸で観る雪の幻燈しんしんと

北斎の瀧糸ごとく光落つ

微睡の窓の向うは雨の国




ひさかたの雨音嬉し草も我も

時を打つ手拍子満ちて盆踊り

我もまた夏しか知らぬ蝉なりき

一夏を鳴ききって逝く空深し


餌撒けば素直にたがる金魚群れ

蝶々は風の指揮者や翅さばき

微睡のボサノバ淡く夢還り

赤青の巨船で踊る鼠たち

一年や嘆きも枯れて春嵐


寒澱み鳥の巣箱が欲しくなり

鈴音の波紋ひろがる瞼かな    一月二十九日  鈴尾・死去

諦めの顔が育てる地獄華

庭に射すオレンジ針の笑顔かな

掃く道の後先に降る落ち葉かな

 
風やすむ空き家になりし虫の籠


蜻蛉スタッカートの飛行旋律

いつの間に自ら嵌めた首輪かな

 
外輪の首輪外せば放物の拳静かに微笑み開く

十八の夢のあやつり芽吹く秋

蜻蛉より薄に乗って揺れる心よ
 

干からびた満月の汁爪の中

指踊り溶けていくのか葡萄粒

無残やな巨木の腹を紙の凡


漕ぎ出せば宿によこたう銚子丸


胸底に・あらびで消えね焚き火あり・誰がどの手で何くべる

出社する流れ中の子を眺め父親の坂下りていく朝


壷湯入り吐息とともに抜る意地

身を讃え落ちていく間の蝉時雨

四つの茶碗に御飯が盛られるシアワセ

闇の背に言霊供え一巡り

脚のばし虫の心に擬態する

人ひとり殺しても死刑にならぬこの国のどの街にもある愛という店

粟粒を湖面に数え嘆き釣り

涼風や月の光のかけぶとん

言葉無き短冊ゆれる雲の峰

蒸し暑き背中に刺さる指鉄砲

隠遁の橋の高みで鯨待つ・・・・・六月・北斎